Webサイトをお米と交換で作ってみること(クイーンズメドウ・カントリーハウス)
2017年9月4日

Webサイトをお米と交換で作ってみること(クイーンズメドウ・カントリーハウス)


グラム・デザインではこれまでに2回ほど、対価をお米で制作したWebサイトがある。どちらも農業法人の小規模な仕事であるが、広告代理店や大手企業クライアントとは成立し得ない「価値交換」であるし、東京にある会社としては少し珍しいことかもしれない。

今年お手伝いしたのは、クイーンズメドウ・カントリーハウスという宿泊機能のある美しい里山農場のWebサイトだ。岩手県・遠野の森にあり、敷地内に馬が放牧されていて、馬糞を肥料として美味しい米や野菜を作っている。自然が循環する仕組みを丁寧に利用した森の農場は、敷地のどこにいても豊かに美しく、何度訪れても身体の深い所にある自然が呼び起こされるような気がする。都市生活の疲れが癒され、自然への新しい好奇心が刺激されて、すっかり元気になってしまう場所なのである。

 

馬と人とが共にある暮らしの実践から生まれる、美しい景観。
その中に宿泊施設がある。

ここの馬たちは一日中草を食むことが仕事だ。馬房に繋がれず、農作業に使役することもなくゆったりしていて、何というか猫のように自由な飼われ方をしている。だから来訪者にも気を許し、体を触らせてくれたりするし、しばらく一緒に過ごすと群れの仲間になったような感覚も得られる。これは動物的な感覚でちょっと言語化しにくいのだけど、まぁ、現象としては、私が歩きだすと、後ろから同じようなリズムでゆったりとついて来てくれたりすることである。

歴史的に、馬たちは人間によって労働力として奴隷化されてきたから、多くのオーナーたちにとっては、労働のための特化した調教を行うことが普通であり、ここのように、馬本来の生態や習性を尊重するような飼い方はしないのだという。最近耳にするアニマルウェルフェア(動物福祉)の観点からも興味深い。

この施設は、東京にある小さな企業を中心に、ランドスケープデザイナー、プランナー、建築家、地元工務店や農家などが力をあわせ、17年もの歳月をかけて開拓してきた場所だ。この、彼らがつくりだした宝物のような場所に、居心地の良い宿泊棟がある。わずか5部屋、ロフト利用を入れても16名しか泊めることができない小さな施設なので、宿泊事業としては少し難しいサイズかもしれないが、大切な収入源のひとつになっている。

これまで、農業・馬事とのバランスを模索してきたこともあって、関係者・知人縁者以外にはあまりオープンにしてこなかったという宿泊施設だが、2017年より一般にも開放することとなり、web・広報についてご相談をいただいたのだった。

 

心から手伝いたい気持ちと、対価の問題。

なにもかもが豊かなQMCHだけれど、今「お金」が不足している、と内情を含めてご相談をいただいたので、お金をかけないこと、またQMCHのスタッフが農作業や馬事の間でも対応できることなどを条件に、ミニマムで必要十分なやリ方を探しましょう、とお答えした。

あの場所を開拓し、多くの大変なことを越えて、あるべき美しさを諦めずに追い続けてきた人たちへの尊敬と感謝があるから、私たちでお役に立てるなら是非ともお手伝いがしたい。 けれど、あの場所に行ったことのないグラムのスタッフもいることを思うと、お金じゃなくてもいい、何かの対価が欲しいと思った。そこで、「お米をいただけませんか?」と投げかけてみたところ、とても喜んで「お米ならあります」と応えてくださった。オフィスの昼食はほぼ毎日自炊(当番制)なので、美味しいお米はスタッフみんなが嬉しい。

お金には「信用」という機能の他に、等価交換をすべき、という性質というか思想みたいなものがあって、時間で測れない「仕事」の対価として上手く機能しないことが良くあると思う。

そういうときに、少し余分にあって、相手が喜んでくれるものと交換する、そういうことが都市部でも、企業のあいだでも、日常的に行われたら楽しいし、お金では測りにくい気持ちの交換が叶うこともあるのではないか。また、お金以外の交換コミュニケーションが鍛えられたなら、お金が持つ「信用」という機能さえアテにしなくて良くなるような気がする。

仮想通貨も普及してきて、近い将来今の形の「お金」は無くなってしまうかも知れない。こんな時代だからこそ、お金を代替するものとしてイメージするのは、ビットコインなどじゃなくて、相手が喜ぶいろいろなモノやコトであったらいいなと思っています。

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