音楽を受け取る、特殊なパッケージデザインのこと。
2017年6月23日

音楽を受け取る、特殊なパッケージデザインのこと。


今の若い方には馴染みがないかもしれないけれど、これは20年前にリリースされた音楽CDの限定版・特殊パッケージである。
 
1997年、イギリスのSpiritualized(スピリチュアライズド)というバンドが、Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space(宇宙遊泳)というアルバムをリリースした。
 
彼らはデビュー当初から、プラケースの通常パッケージとは別に、作品世界を追求した刺激的な特殊パッケージを発表し続けていて、私達のような音楽ファンは少ない情報を頼りに、レコード店に足繁く通っては彼らに関する様々なアイテムを買い集めていた。
 
今回紹介したいのは、彼らの3作目にあたるこのアルバムのアートワーク。
薬物による酩酊や目に見えない精神世界を音楽で再現しようとしてきたバンドのコンセプトに応えて、「錠剤」のパッケージを丁寧に模したものだ。
 
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 CDのパッケージらしからぬミニマルなデザインは、当時とても斬新に感じられ、ワクワクしながら開封したものだ。箱を開けると、薬剤名のように繰り返し「Spiritualized」と印刷された白いブリスターパッケージが入っており、CDを取り出すにはアルミを破らなければならない。全くもってコレクター泣かせである。
 
しかも、使用上の注意ならぬ「リスニング上の注意」が同梱していあるという、念の入れよう。
書体をHelveticaで統一しているところも、このデザインを際立たせる重要な要素となっているのだが、この、ロックバンドじゃないみたいな味気ない表記は、後に正式なロゴとして使われ続けることになる。
 
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 アルバムは、このバンドの代表作と言える素晴らしい内容であるけど、それにも増してこのアートワークが音楽単体では獲得できない広がりと深みを与えており、それは私にとって音楽ソフトを超えた、手の届く特別なアートピースでもあった。
 
そして、彼らの一連のアートワークを手がけてきたのが、イギリスのアートディレクター、Mark Farrow(マーク・ファロウ)率いるFarrow Design。
同じくイギリスのアートディレクター、ピーター・サヴィルと並び、私のヒーローのひとりである。
 
音楽CDの特殊パッケージは、ある時期、そのクリエイティビティを競うようにして発表された(採算の合わないモノもあっただろう)が、あのように音楽表現を追求した特殊パッケージはほどなく姿を消してしまったように思う。やがて時代はストリーミングやダウンロードが主流となり、今はマニアにとっての懐かしアイテムだ。
 
けれど、音楽ファンとしても、またデザインを生業としている身としても、特殊パッケージという表現への執着を、いまだ恋しく思っている。
 
この「薬パッケージ」のアートワークは、後にいくつかのバリエーションに引き継がれる。初期のコンセプトはずっと貫かれていて、ヴァイナルのインナースリーブとCDのアルミのデザインが統一されているところなどは、なんとも心憎く嬉しい限り。
 
◯1曲1CDにバラした12枚組み(6枚入りのシート×2)パッケージ
◯ヴァイナル2枚組
◯2009年に発売されたリマスタ版
 
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我が家のクローゼットには、ダンボールに詰められたCDが7箱ぐらい眠っていて、ぼちぼち手放して身軽になりたいと思っている。
 
ほじくり返したら、面白いものが出てくると思うので、いずれまたここで。
 
 
小森
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